宅地建物取引業法の改正(1)既存の建物の取引における情報提供の充実

 「宅地建物取引業法の一部を改正する法律案」が、平成28年5月27日に国会にて可決成立しました。

施行は来年春または再来年の春ですが、幾つかの重要な改正がありますので、何回かに分けてご紹介いたします。
 
今回の最大の目玉は「既存の建物の取引における情報提供の充実」ですので、まずはこちらからみていきましょう。
 
人口減少・少子高齢化が加速し、新築住宅をたくさん作って売れる時代ではなくなりつつあります。
こうした中、既存住宅流通市場の拡大が期待されるところですが、消費者が住宅の質を把握しづらい状況にあることも一因として、流通量がなかなか増えていません。
 
今回の改正案では、既存の建物の取引における情報提供の充実を図るため、宅地建物取引業者に対し、以下の事項を義務付けました。
 
 
■媒介契約の締結時に建物状況調査(いわゆるインスペクション)を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面の依頼者への交付(第34条の2第1項第4号)
 
宅地建物取引業者が、インスペクション業者のあっせんの可否を示し、依頼者の意向に応じてあっせんするというものです。
インスペクションそのものを義務付けるものではないですが、インスペクションの存在を依頼者に知らしめることにより、インスペクションの普及につなげようという意図があります。
宅地建物取引業者にとっても、新たなビジネスチャンスにつながることも期待できます。
 
 
第34条の2第1項第4号
当該建物が既存の建物であるときは、依頼者に対する建物状況調査(建物の構造耐力上主要な部分又は雨水の侵入を防止する部分として国土交通省令で定めるもの(第37条第1項第2号の2において「建物の構造耐力上主要な部分等」という。)の状況の調査であって、経年変化その他の建物に生じる事象に関する知識及び能力を有する者として国土交通省令で定める者が実施するものをいう。第35条第1項第6号の2イにおいて同じ。)を実施する者のあっせんに関する事項
 
■買主等に対して建物状況調査の結果の概要等を重要事項として説明(第35条第1項第6号の2の新設)
 
宅地建物取引業者に対し、インスペクションの結果を買主に対して説明することを義務付けました。
建物の状態・質を踏まえた購入判断や価格交渉等が可能になることが期待されています。
 
また、「設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるもの」の保存の状況についても説明項目に加えられました。
対象となる書類の範囲は宅地建物取引業法施行規則の改正案が出ていないので分かりませんが、いずれにしても宅地建物取引業者は、契約締結の前にこれらの書類の存否を確認する必要があります。
 
第35条第1項第6号の2
当該建物が既存の建物であるときは、次に掲げる事項
イ 建物状況調査(実施後国土交通省令で定める期間を経過していないものに限る。)を実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要
ロ 設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況
 
 
■売買契約等成立時に建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面の交付(第37条第1項第2号の2の新設)
 
37条書面(=売買契約書)の記載事項として追加されました。
瑕疵を巡るトラブルの多くは、売主・買主間の認識の齟齬(言った・言わない)に起因することから、書面で確認することを義務付けることにより、紛争を防止しようという趣旨です。
 
なお、同条同項第6号以下のように「定めがあるときは」となっていないことから、必ず記載しなければならない事項(必要的記載事項)であると解されます。
 
第37条第1項第2号の2
当該建物が既存の建物であるときは、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項
 
 
建物状況調査が普及すれば、買い手にとって安心材料が増えるわけですので、既存住宅の購入に対する抵抗感が薄まることが期待できます。
 
しかし、調査費用の負担や、調査によって欠陥・不具合等が判明した場合に売れにくくなってしまう懸念がある等、売主が建物状況調査を行うことに対して躊躇してしまうことも予想されます。
 
今後どれだけ建物状況調査が普及していくかは未知数ですが、動向を注目していきたいと思います。
 
 
※この改正については、公布日から2年以内に施行される予定です。
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