民法改正による不動産取引への影響(8)危険負担

危険負担とは、双務契約成立後に、債務者の責めに帰さない事由によって一方の債務の履行が不可能となった場合に、他方の債務が存続すのか、あるいは消滅するのか、ということです。
 
現行法においては、不動産等の特定物売買においては、売主の目的物引渡債務の履行が不可能となった場合でも、買主の代金支払債務は存続するという債権者主義が採用されています(第534条)。
 
この債権者主義に関しては批判も多く、実務においては、当事者間の合意によって債権者主義を排除する定め、すなわち目的物引渡債務の履行が不可能となった場合には代金支払債務も消滅するという取り決めをすることが一般的です。
 
 
今回の改正案においては、債権者主義の条項は削除されています。
 
つまり、当事者双方の責めに帰することができない事由によって目的物引渡債務を履行することができなくなったときは、買主は代金の支払を拒むことができることになります。
 
法律としては大きな転換ですが、現在の実務上の取扱い(契約書において債権者主義の排除の特約を定める)と同じ結果になるので、特段大きな問題は無いと思われます。
 
 
【現行】
(債権者の危険負担)
第534条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2  不特定物に関する契約については、第401条第2項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
 
(停止条件付双務契約における危険負担)
第535条  前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
2  停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。
3  停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
 
(債務者の危険負担等)
第536条  前2条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
【改正案】
第534条、第535条は削除
 
(債務者の危険負担等)
第536条  当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
 
ページトップへ